日本という国はマイナスを無くすことに重点を置き、欧米はプラスを伸ばすことに重点を置く、ということが今でも言われているようです。
欠点や不得意の部分を指摘すると萎縮してしまい、優れた点や得意の分野を伸ばすことで、自信も付き伸び伸びと動くようになる。

こんな話は、僕の子供の頃からあったし、社会に出て仕事をするようになってからも当たり前に言われていました。
社員教育にしてもそう、売上を上げるにしてもそうであったし、僕も仕事に関してはその方向でやって来ました。
僕が社会に出た頃はすでに競争社会であった。日本経済も昇り調子でした。
教育界でも、マイナスを無くすよりもプラスを伸ばす教育が声高に言われて来たはずですし、それが正しいことであると多くの人々は納得して来たはずです。
そしていまだに言われる。プラスを伸ばす教育が大事と。

プラスを伸ばすことは本当にそんなに良いことなのだろうか?
何十年も言われ続けて来たにも関わらず、未だに浸透していないのはなぜなのか?

レーダーチャートというグラフを見たことがあるでしょう。
こんなやつです。

無題1

このグラフを使った評価の仕方は2通りある。
線内面積を評価するかバランスを評価するか。
企業的に見れば、面積を大きくすることを評価する。
そして不得意分野よりも得意分野を伸ばすことが簡単であるということで、グラフはイビツになる。
経済成長下の日本社会もこのイビツを望みました。
飲食店で言えば、昔はデパートの大食堂のような和洋中何でも取り揃えた飲食店が好まれた。
現在はデパートの大食堂はほとんど姿を消し、和なら和、洋なら洋。そしてその中でも天麩羅やうどんやステーキやパスタなどより細かく専門特化する店が好まれるようになった。

さてそろそろ武道の話をしましょう。
武芸十八般という言葉がある。言葉は残っていても現在では無いに等しいです。
参考のために武芸十八般とは、諸説ありますが、弓術・馬術・槍術・剣術・抜刀術・短刀術・十手術・手裏剣術・含針術・薙刀術・砲術・捕手術・柔術・棒術・鎖鎌術・もじり術・隠形(しのび)術・杖術・契木術などを言うそうです。
今時こんなものを全てやってるような酔狂人はいないに違いない。
さすがに昔だってこれら全てを修行した者は少なかっただろうし、全てにおいて一流だった者もいなかったに違いない。
しかしどれか一つだけしかやらなかったという者もいなかったに違いない。特別に修行はしないにしても複数に渡って知識くらいは身につけていた者も多かったと思います。
ところが今では、このうちのどれか一つ、それもその中のごく狭い事柄に特化してそれしか知らないという者が非常に多いし、それでよいと思ってる者も多いです。
確かに、一芸に秀でる者は多芸に通ずという言葉もある。
やれば通ずるものも多くあるであろうが、やらないなら通ずるも何も無い。
経験・稽古しないものは出来ないのです。

まあ限定されたルールのスポーツゲームならそれでもよいでしょう。
色んな人材がいて、それぞれのマイナスを補える者がいる企業ならそれでもよい。
国際間の友好が保たれて、資源や食糧の調達がスムーズに行くならよい。
しかし、それらが無い場合や無くなった場合はどうなるのでしょうか?

一つのミスで命が無くなる場合がある。
一つのミスで大会社が倒産することもある。
国際情勢が悪化して石油や小麦が止まったら、現時点の日本はお手上げですね。
信用を得るのは何年も掛かる。信用を失うのは一瞬。
無くした信用を取り戻すためには、ゼロから始めるよりも大変なのです。

今の世は使い捨て社会です。
他人が斬られて死ぬのは他人の勝手です。
だから他人のマイナスを無くそうとしない。
プラスを伸ばして育てて、失敗したら斬ればよいのです。
代わりがいくらでもいるということです。

自分が斬られて死んで困るなら、他人に斬られるのが嫌なら、まずはマイナスを無くすべきでしょう。
レーダーチャートの形を円に近い形に持っていって、少しずつ全体的に大きくして行くべきでしょう。
尖ると、ついつい人を刺したくなるものです。
人を刺すと、明日は我が身かも知れない。

そう思うから、うちはダメを出す。
ダメを出すということは、マイナスを無くし、プラスも無くすために行う。
合気道はバランスが第一と考えるからです。

小さくともよい。
まず円になれ、球になれ。