これは「吉野愛氣塾」という名前で活動をしていた時のもので、2002年10月8日に発表しました。
今でも基本的な部分は変わってはいませんので、掲載します。

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1.立ち方
愛氣塾の合気道は、剣の理ということを基本にしています。
ですからどのような技を掛けるにしても、すべて剣に置き換えても同じように出来る必要があります。そのもっとも基本としての立ち方の説明を行います。
俗に撞木(しゅもく)と呼ばれている立ち方です。撞木とは寺院などの釣り鐘を撞く立ち方です。

足を一直線上に前後に開いて、その線に両足の親指の付け根の部分の、プクッと膨らんでるところ(拇指丘)をそわしてください。
広さは適当でよいですが肩幅くらいがよいでしょう。膝はちょっと外股のようになって、ちょうど一本の綱の上に乗って、綱渡りでもするイメージで立ってみてください。
膝の力は軽くしておいて、バランスの取りやすいように。綱渡りの時に固かったらすぐに落ちてしまいますね。この膝をいつでも動かせる状態で立つことが大事です。固定をしてしまうと変化への対応が遅れ、余計バランスが悪くなります。
また頭のてっぺんに紐がついていて、天井から吊り下げられてる感じで立つと、姿勢が真っ直ぐにバランスよく立てます。このバランスを保った状態で動けるということが、吉野合気道の基本的な考え方です。

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2.歩き方
次に歩き方の説明です。
吉野での山仕事に従事するうちに考えついたものです。山仕事に従事する人たちは自然に「難場歩き」というものを身につけています。この歩きは、その難場歩きをさらに分解し、大袈裟にしてその意味するところを明確にしたものです。
空手などの他武術にも同じようにS字歩行というのがありますが、ただ歩くだけでなくその意味を理解しながら歩き方を身につけなければ実践で活きません。

基本的な考え方として、歩くのは足で歩くのではないということ。腹で歩く、あるいは腰を回して歩く、ということです。もちろん腹で歩くにしても腰を回して歩くにしても、結果的には足の筋力で歩くのですが、その意識の仕方で効率がずいぶん変わって来ます。ですから初心者の間は腹で歩く、腰を回す、ということを頭に置いておかれたほうがよいと思います。

まず左足を前に出します。そこで体を左にひねる、もっとひねる。実際は体が捻られるのではなく、足が捻られているわけですから、この時膝が固ければ少ししかひねることが出来ません。足は力を抜いて柔軟にしてください。
どんどんひねると、右足が後ろのあるままだと辛くなってきますので、前に持ってきて左足に揃えます。揃えた時点で十分に腰の位置が下がっていることが重要です。つまり膝が曲がっていないといけません。
今正面に向かって体が左斜めになってます。次は正面に向き直ります。そうすると右足が自然に前に出て、基本の立ち方になります。今度は右に体をひねって、同じように左足をひきつけます。正面に向き直って左足が前に出る。この繰り返しで、前に進んで行きます。
注意点としては下向かないということ。最初のうちはどうしても足の形が気になりますが、早く慣れて足を見ないでも歩けるようになってください。目線を下げずに、天井から吊り下げれてる人形がクリックリッと紐でひねられているように、足も腰の動きにつられて前に出るようにしてください。
また、移動の時に足で地面を蹴って前に出ないということ。足裏は常に地面となるべく平行に、ただ重心が踵から親指のつま先に自然に抜けると感じる程度。
地面からの腰の高さが、あまり変わってはいけません。そのためには十分な膝のバネが必要です。この膝のバネの力こそが相手に伝えるべき力です。

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ただ一人で歩くだけでなく、棒を使って相手を押したり、また手で押して歩いたりすると、どういう理屈で前に押せるのかがよく分かります。
必ず力は下から上に持ち上げるように伝えること。そのためには相手と接した瞬間に、相手に下から食い込んでおくことが大切です。

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3.構え方
剣の構えは、単に剣だけでなく徒手武術にも共通した理があります。ですから応用として同じように使うことが出来ます。
まず剣の握り方ですが、右が上で左は下ということはご存じでしょう。左手はハラに繋がり、右手は相手に繋がってます。
剣は左手で振るという話も聞きますが、それも正しいと言えば正しいことです。左はパワー(エンジン)であり右はコントロール(ハンドル)として使うべきというのが吉野愛氣塾の考え方です。いずれにしろ、押す力と引く力と同時に働かせて剣は持ち、使います。
握るのは小指が一番強くて次に薬指そして中指。こう意識することによって同じくらいの力が掛かります。人差し指と親指は初心者のうちは思い切って伸ばしておきましょう。
普通、ものを握るといえば、人差し指と親指に力が入りやすいものですが、それでは腕の力だけになって、身体の力が伝わりません。つまり体の力を伝えたくても、指の力の分しか伝達しないということになります。ですから、初心者のうちは、ついつい握りたくなる人差し指と親指は伸ばしておいた方がよいとしています。
それでもって、雑巾を絞る感じで持ちます。どのくらい絞ればよいかというと、拇指丘がちょうど相手の方を向いてるくらいがよいでしょう。押し負けるようなことがないように、また窮屈でないように、それくらいが適当だと思います。この剣の握りが、相手の腕を掴む時の握り方と一緒です。

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次に腕ですが、腕は伸ばし過ぎてはいけません。つねに軽く曲がっているように。ちょうどお臍の下くらいから棒が伸びているとイメージして、必ずその棒のライン上に手を置きます。
その状態で胸をすぼめ、肩を丸めます。危険なことに出会った瞬間に、とっさに身をすくめるような状態です。

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愛氣塾では上半身の固定ということにうるさいです。なぜかといいますと、合気道は剣ですから相手も剣を持っています。
最初のうちから力を抜いてやっていたら、相手の剣勢に負けてしまいます。相手が強かろうが弱かろうが、油断をしてはいけません。ですから絶対に自分を守る、そういうことから入っていきます。
このごろ合気道の道場も文化教室みたいなとこも増えてきて、なかなか剣の稽古をするとこが少なくなってきました。中には天井の低いところもあって、物理的に剣を振れないとこもあるようです。また女性や子供が増えてきて、優しい稽古が主流になっているとこも多いです。
また、型通りの組太刀や組杖などを剣の稽古だと思ってやっているところもあります。ですから剣や杖と体術とがまったく別個のように独立し、繋がっていない稽古も見かけます。
愛氣塾の剣は勝手な自己流ですが、この構え方は相手に付け入る隙を与えない、基本の構え方です。