合気道で当たり前に使われている「入身」という言葉ですが、これこれとはっきり定義づけられて決まっているものではないようです。
その証拠に、各流派各指導者で教えることが違い、当然のことながらやってることが違いますし、入身というものが何であるかを明確に教えないところも少なくありません。
当方ではそこらへんのところは明確にしております。正勝すなわち表です。「正に勝つ」「正面から勝つ」ことです。
今回は剣を使って、入身というものがどういうことであるかを示したいと思います。

剣の入身を語る前に、まず剣というものがどうなっているのかを知る必要があります。
そこで剣の振り下ろしから説明します。
普通剣を振り上げてみろと言うと、このように何の気無しに大きく振り上げがちです。
わかりやすいように木刀に印をつけていますが、剣を振り上げる人の意識が印のところ
まで来ていれば、これでは振り上げ過ぎです。
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ではどこまで振り上げればよいかというと、自分の体の真中を通る中心線の延長のところまで。
ここまでで止めておかないと、剣を止められた場合振り下ろす力が出ません。
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ただ意識を置く場所が、この印のように手元に近いと振り下ろすことが出来ます。
つまり剣を振る場合は、自分の意識をどこに置くか、またその意識を置いた部分をどこまで上げるかを常に考えるようにしてください。意識は一番高いところまでで止めるということが大事なことです。
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さて振り下ろしは振り上げた力を自分の腹におさめてくるような意識で下ろします。
全部力がおさまって外に出て残っている力がないように。
そっと押さえられたら絶対に上がらないというのがポイントになります。
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次は半身の説明をします。
半身というのはただ体を横に向けるだけでなく、自分の剣の切っ先は相手を捉えながら相手の剣は自分の体に触れないように、斜めのラインを作るのです。
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イメージで描いたその斜めのラインを体がスムーズに動くことで、空間上に作り出します。
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剣の振り上げ振り下ろしは呼吸そのものなのです。
呼吸は腹から出て天に向かい、一番高いところまで上がるとそこから落ちて来る。
落ちて来るのを腹でしっかり受け止める。受け止めるからこそまた次に天に上げることが出来ます。

ここまでがごく基本の剣の振り方です。
ここまでがしっかり理解出来て、体でも行えて次の段階に入ります。
次の段階とは、先の先です。

剣を構えた状態というのは、これから振り上げるという準備の状態。つまり腹に力がおさまった状態なのです。上で説明しましたが、腹におさまった時はそっと押さえられただけで、その体の状態のまま、じっとしたままでは剣を振り上げることが出来ません。
そこを押さえてしまうのが「先の先」です。写真の状態が「先の先」を取った状態ですが、これで最初の勝ちが決まっています。
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たとえば相手が無理に剣を振り上げようとしますと、こちらはその相手の力に乗じて前に出ればよいだけ。
体は半身をきって相手の剣を逸らしていますから、ただそれだけでよいのです。
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「先の先」の応用としての「先」も説明しておきます。
まずは先の先を取ります。相手は負けているのがわかっている、なおかつこれから振り上げようと準備をしている。
そこで押さえているのをわざと外してあげます。
すると待ってましたとばかりに相手の剣が上がりますから、そこの下から食い込んでいく。
これが「先」の取り方であり、「先」というものは「先の先」を取った後の相手の誘導の仕方のひとつなのです。
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では、相手に先の先を取られたらもうどうしようもないのか。
そうではありません。単に先に相手にあるポイントを押さえられたということだけですので、そのポイントでの負けは素直に認めて、ポイントを他に移せばよいのです。
具体的に示すと、このように相手に切っ先のほうに置いてある意識のポイントを押さえられた場合、いつまでもそのポイントに拘ると相手に誘導されます。
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ポイントさえ外せば体は自由に動きますし、反撃も十分可能です。
最終的な勝負というものは、拘ったほうが負け、拘りを作らされたほうが負けなのです。
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相手の拘りを作り出すためにまず必要なことは、相手の拘りを見抜く目です。
少し極端ですが杖を構えてみました。
先のほうに意識を置いて構えたものと手前に意識を置いて構えたものですが、構えが違うということは当然体の形が違います。向きも違うし初心者なら視線も違います。
杖や剣で判断するのではなく、相手の体の形状を見て、相手がどこにポイントを置いているかを見抜く稽古が必要です。
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さて、ここまで剣の知識があれば、あとは簡単なのです。
まずさっと相手の意識のポイントを制する。制したらそのままポイントを外さないようにズンズン進むだけ。
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これだけで、自分の剣は相手を捉え、相手の剣は自分から逸れるということが実現出来ます。
これこそが「入身」というものなのです。
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このように相手を打ってやろうなどと邪心を起こしてはいけません。
邪心を起こせばそこに隙が生まれます。
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隙が出来たらそこに入り込まれる。
当たり前のことです。
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次は素手による打撃を例にして入身を説明します。
要は剣の入身の応用でしかないということです。
剣と拳を別のものと考えずに、同じものとして見て同じものとして対処する。
これが合気道開祖の仰られた、「みんな一緒」に繋がるのです。

まずは相手との間合いを詰めに行きます。
変に構えることなく、自然に歩いて行けばよいのです。
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一気に飛び込める距離まで間合いが詰まったら、剣の時と同様に相手の意識のある場所を捉えて、イメージにて押さえます。
この押さえるイメージこそが大切なのです。これが完璧に出来れば勝負はついたとも言えます。
とりあえず稽古ですから、順を追ってやっていきます。
今、相手(手前)の意識は前に出ているほうの拳(左手)にあるとします。
まずはそれを押さえます。
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押さえたら、押さえた拳に滑り込むように体を移動します。
この時は、ただ拳を押さえるために移動するのです。
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実際に拳を押さえたら、そこから相手の顔面に対して攻撃に移ります。
つまり、拳を押さえに行く、攻撃する、というのをきっちり分けるということです。
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普通にやられているのは、直接攻撃点に向かって行くことですが、これが一番の間違いです。
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これはどんなに速くても相手にわかります。
このように受けられたり、当たっても上手くポイントをずらされたりしてしまいます。
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上のことが理解出来て、まず押さえるということが出来るようになれば次の稽古に移ります。
前に出ているほうを押さえて、攻撃点に移るというのでは、相手が意識の置き所を変えた場合、
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このようにもう片方の手で受けられてしまいます。
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そこで行うべきことは、まずは手前のポイントを押さえたら、
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もうひとつのポイント、もう片方の拳を押さえに行きます。
この時も、最初に押さえた手の上を滑るように移動させます。
そうすると、両方の手を同時に押さえることが出来ます。
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そこにもう一方の手で攻撃を加えます。
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簡単なようですが、本当に簡単です。
武術は難しいことは要りません。
そういうものは実際の場ではなかなか出て来ません。
簡単なことが簡単に出来るようになること。
当たり前のことを当たり前に出来るようになること。

それが大切なことなのです。