こう見えても、僕も以前には会社勤めなるものをしておりました。一応そこで管理職なるものをやっておったんですね。
そこは担当部署の配置換えが激しい会社でして、僕もあちこちによく異動をさせられたものです。
しかし自分で言うのもなんですが、結構僕の担当する部署は前任者に比べて確実に業績が上がるので、業績の落ち込んだところとか新しく開設されたところの土台作りとして、余計あちらこちら行かされたわけなんです。
僕のことですから、行った先々で自分の思ったやり方で思ったと通りのことしかしませんから、当然のことながらどこへ行っても摩擦が大きいんですね。そこに前からいる人たちにとっては、今までの自分たちのやり方を頭から否定されるように思うのでしょう。
しかし、企業においては何でもキッチリした数字というもので評価されますから、そんな甘えは許しておけなかったんですね。そして僕は人に嫌われても一向に平気という無神経人間と思われていましたから、なおさら都合がよいとばかりにその役に徹していたのですね。
直属上司にもあまり好かれてはいませんでしたね。数字が上がるのはよいのだけれど、それが僕の功績だとは認めたくない。でないと今までの自分の無能さがはっきりしてしまうからね。
それに僕は上司だろうとなんだろうと、噛み付くときは噛み付くし、不機嫌なときは思いきり不機嫌な顔をするし、馬鹿にしている人間には、それなりの態度が出てしまうし、ちっとも可愛げのない人間でしたから、無理もないでしょうね。
時代はバブル直前からバブル真っ只中に掛けてのことだったから、僕の功績ではなく世間の流れというものの影響ということ、そして僕が単にラッキーだったということにしやすかったのでしょうけど。
そういう時代ですから、あちこちに研修やら訓練やらも会社から行かせてもらいました。一時人気ありましたよね、合宿してのスパルタ訓練っていうやつ。あの頃はどの企業も人に金を使ってました。
今から考えたら少し危ないようなものもありましたねえ。自己啓発セミナーみたいのとか。
でも僕、結構好きだったんです、そういうの。だから他の人たちが嫌々参加しているのと比べて、僕が嬉しそうに積極的に参加しているものだから、そっち方面の仕事も向いているのかなんて、また余計な仕事を押し付けられたりもしましたけどね。
だから人を苛めたり怒らしたり、泣かしたりするのは今でも得意中の得意なんです。
そんないろいろな研修の中で、今でもしっかりと心の中に残っているのは、初期のころに受けた管理者講習の中のQCに関する講習ですね。
QCっていうのも一時大変流行りましたよね。というより日本の経済成長を支えてきたのはこのQC手法の活用があったからこそでしょう。
最も日本らしい、日本だからこそ効力を発揮する素晴らしいものですね。そのころはまだ合気道に出会ってなかったのですが、今から考えると実はその考え方は合気道の考え方そのものと言ってもよいですね。
ま、詳しいことは言いませんが、その講習の中では様々な形で言葉の定義付けがなされています。
もう正しい言い方は忘れてしまいましたが、いくつか言いますね。
「問題」とは理想と現実とのギャップのこと。そのギャップをどれだけ具体的に意識できるかが問題意識の大きさなんですね。
そして「改善」とは問題を問題と認識して、現実と理想とのギャップを少しでも埋めようとすることであり、また理想への階段を昇るということなんですね。
でもせっかく階段を昇っても、後戻りをしてはいけないんです。ずっと昇り続けなければならない。
たまに踊場で休憩することは必要ですが、また降りてしまっては駄目なんですね。
人間っていうものは自然と低いところに集まりたくなるものらしいです。水が高いところから低いところに流れるのと同じようにね。
また、一旦止まったら、今度動きだすまでに時間の掛かるものなんです。これは人間だけでなく、この大宇宙のあらゆる物事がそういう性質を持っているんですね。
でもその性質と逆の性質も併せ持っているのです。
それが、宇宙であり、人間なんだと思います。
改善というのはこれは宇宙の意思に合致したことであり、万物は変わり続けないといけないのですね。
その反面、休止することも必要だし、後ろを振る返ることも必要です。でも後ろを振り返っても後戻りは出来ないんです。後戻りはしちゃいけない。
その、後戻りしようとする、階段を降りようとするのに歯止めを掛けるのが、「管理」というものなんですね。
物事は変化し続けているんだし、人は改善し続け、階段を昇り続ける。だからそれに合わせて管理のあり方も変化し続けないといけませんね。
実際の職場で管理者として、リーダーとして活躍されていらっしゃる方も多いと思います。
当然部下の方たちにその日その都度、作業割り当てを決めることがあろうかと思います。
しかし、本当のリーダーの仕事というのはそういうものではない。
リーダーのやるべき仕事は、作業割り当ての変更をし続けることと、教えてもらいました。
そしてそれは自分自身の心身を管理する、自分というものの仕事でもあり、当然合気道の指導者としての仕事でもあるわけです。
そしてそういうことも合気道の稽古を通して教えていかなければならないことと思います。
最後にQC手法と合気道の類似点について。
QC手法はPlan 計画、Do 試行、Check 反省、Action 行動、というPDCAという4つを繰り返し繰り返し廻すことによって、改善をはかっていくものです。
このPDCAサイクルのどれが欠けてもいけません。
合気道もそうなんです。PDCAの代わりに気流柔剛を当てはめていただいたら、よくわかると思います。
このサイクルを潤滑に廻すのも管理者そして指導者たる者としての大切な仕事だと思います。