以前、ネットで知り合った合氣万生道下関の方のご紹介で、合氣万生道(現・万生館合氣道)の道長であらせられた故・諴秀先生の有段者研修会に参加し、直接に手を取らせていただきました。
合氣万生道熊本本部道場は、熊本市水道町の手取神社という神社の一角にありました。
僕たちが伺った頃には50畳ほどの小さな道場に、すでに100名を超える方々が詰めかけておられました。
畳も現代のビニール貼りの柔道畳ではなく、昔の固い道場畳でこの上で跳んだり跳ねたりの技をやると相当痛いだろうなあ、と感じました。
当日は研修会の前に開祖三十三周年と合氣万生道の父ともいわれる中嶋先生の二十三周年合同慰霊祭ということで、道場正面には祭壇が設けられており、古い道場と相まって実に厳かな雰囲気をかもし出していました。
研修会だけでなく、合同慰霊祭にも出席させていただいたことと、砂泊先生の「きっと開祖もご覧になっておられる」とのお話に、奇縁と申しますか何かしらの力を感じました。
僕は稽古や講習会ではあまり口に出して「陰陽の結び」ということを強調しませんし、合理的で目にもはっきりと見え、頭でも簡単に理解出来る物理法則と身体反応を術理の基本においていますし。
しかしその術理の根幹は大阪合気会創設者である、田中万川先生の入身転換反射道であり、砂泊先生の呼吸に関するお考えだとしてきました。
もちろんお二方の中に開祖植芝大先生の合気道の精神を僕が感じてきたからであります。
ただ残念なことに、田中先生は僕が合気道を始める以前にお亡くなりになっておられました。
ですから田中先生の著作「合氣道神髄」と残されたビデオ映像で入身転換反射道を感じ、それらを田中先生の内弟子であられた先生方の稽古から検証していくしかありませんでした。
が、様々な先生の教えを受け、総合してしていくうちに朧気ながらも入身転換反射道の輪郭くらいには迫ることが出来ていたのではないかと思います。
しかし砂泊先生に関しては、合氣万生道の指導者や修行者との交流もなく、著作やビデオでの見識しかありませんでした。ですから結びにしても呼吸力にしても万有愛護の精神にしても、まったくの自己解釈でしかなく、同じような稽古や技をしていたとしてもそれは真似事・想像の域を出るものではありませんでした。
もちろん一日有段者研修会に参加して、幾度か先生のお手を取らせていただくだけで、簡単に砂泊先生のすべてがわかるわけはありません。
有段者研修会にいらっしゃった100人あまりの方々すべてに先生は手を取らせてくださいます。だから僕もその100人の中の一人でしかありません。
その僅かな時間で何を感じ、何をチェックするかを決めてかからないと結局何も得ることもなく終わってしまいます。
そこで先に受けを取る方々を見て、普通の万生道方々の取り方ではない取り方をした時の先生の対応を拝見させていただくことにしました。
おそらく多くの万生道修行者の方々から見れば、なんとも不細工な取り方に映ったことと思いますし、中には不快を感じられた方もいらっしゃったかも知れません。
僕が先生の受けを取る度に、年配の高段者の先生方数人に囲まれましたから。(笑)
しかし僕としては少ない時間の中から「敵をして戦う心無からしむ」をどう体現され、どう僕に伝えてくださるか、そしてその伝え方が僕の普段の術理と違うのか同じなのかで、今まで自分がやってきたこと、そしてこれから目指して行こうとしている道の方向性が正しいのか間違っているのかをチェックしたかった。けして砂泊先生を試すというのではなく、自分を試すつもりで手を取らせていただきました。
ですので粘ったり突っ込んだり先取りして合わせたり下から食い込んだりとさせていただきましたし、その度に指導者の方々に疑問をぶつけ回答を聴き、そこで解決出来ない疑問をまた先生に身体でぶつけるということを六度ほど手を取らせていただいた中で繰り返させていただきました。
そしてその六度とも、先生は実に納得出来る回答を身体で伝えてくださったと思います。
「万有愛護の大精神」そして「敵をして敵無からしむ」を、僕が言うのは大変おこがましいですが、砂泊先生は「見事に体現」しておられました。
僕も今までに多くの方々の手を取って参りました。しかし口とは裏腹に、中心に突っ込んで行きますと和合どころか「破壊」と「逃げ」を行う指導者が多かった。
大体、僕のような未熟な者に簡単に中心に突っ込まれて慌てる自体が問題なのだと思いますが、中心に突っ込まなくても外からのちょっとした刺激に過剰反応する指導者も多かったです。
その点で砂泊先生は、慌てもしない、逃げも誤魔化しもしない、過剰な反応もなさらない。しっかりと僕の意図を受け止められて手を通して応えてくださいました。
その対応処理のされ方が、僕の合気道の理想とする対応処理であったということで、僕のこれから先の修行の方向性にも自信をもつことが出来ました。
また砂泊先生だけでなく諸先生方との質疑応答もあってこそ、よりしっかりと先生のお心を理解することが出来たのだろうと思います。
お話させていただいた中のある先生が言っておられました。
有段者研修会は「技を学ぶ場」ではなく、「魂を学ぶ場」とのこと。
本当にそう思いました。あの僅かな時間で手を通してのみでパーフェクト回答をくださった砂泊先生は実に素晴らしい先生でした。
その貴重な体験を活かして、開祖の残された正しい合気道を、もっと多くの方々に広め伝えなければならないと決意を新たにいたしました。
砂泊大先生、合氣万生道の諸先生方、修行者の方々、そしてその機会を設定してくださった、この世の森羅万象にも感謝いたしております。